ホーム /読みもの /1日1組の経済学|なぜ贅沢は数を絞るのか

1日1組の経済学|なぜ贅沢は数を絞るのか

· 泊まり火編集部

泊まり火に掲載している宿の紹介文を数えてみたら、「1日1組」を掲げる施設が120軒を超えていた。掲載施設の2割近くにあたる。これは考えてみれば不思議なことだ。部屋を増やし、組数を増やせば、売上は単純に増える。ホテル業はずっとそうやって大きくなってきた。なのに、この宿たちは逆へ向かう。敷地をまるごと、たった一組に明け渡してしまう。

理由のひとつは、掛け算の答えがひとつしかないからだと思う。眺めのいい風呂が2つあっても、「いちばんいい時間」の湯は1つしかない。夕日のベストポジションも、焚き火を囲む特等席も、本当は1組ぶんしか存在しない。組数を絞るというのは、その「いちばん」を薄めずに渡すという決断だ。

そしてもうひとつ。1日1組の宿では、「他の客」という概念が消える。廊下ですれ違う人も、隣の話し声も、朝食会場の席取りもない。気配のない静けさは、設備では作れない。減らすことでしか作れない贅沢が、たしかにある。

朝焼けの静かなリゾートの水辺
Photo: raduranga / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)

3,000㎡に、1棟だけ: Cottage Views(コテージビューズ)屋久島

Cottage Views(コテージビューズ)屋久島公式サイトよりヴィラ屋久島(鹿児島) · 鹿児島県Cottage Views(コテージビューズ)屋久島最大4名 · 25,000〜47,000円 / 泊施設ページを見る →

屋久島南部、約3,000㎡の敷地に建物は1棟だけ。1日1組限定で、予約は3泊以上から。山を背に森と海を望み、フィンランド式バレルサウナでととのう。「敷地の広さ ÷ 組数」という割り算をすると、この宿の値は途方もないことになる。数を絞るどころか、時間まで絞っている(3泊から)のは、島の時間に慣れるには数日かかると知っているからだろう。定員4名。

18名でも、1組は1組: MOROISOSO(モロイソソウ)三浦

MOROISOSO(モロイソソウ)三浦公式サイトよりヴィラ三浦・城ヶ島(神奈川) · 神奈川県MOROISOSO(モロイソソウ)三浦最大18名施設ページを見る →

三浦・諸磯の海辺に建つ1日1組限定の貸切ヴィラ。巨大なプール型露天風呂にサウナ、ドッグランまで備え、最大18名で泊まれる。「1日1組」は少人数の贅沢と思われがちだが、ここは逆で、大所帯をまるごと1組として迎える。18人で貸し切っても、他の客とは一度もすれ違わない。三世代の集まりや仲間の合宿が「他人の目」から解放されるとどうなるかは、泊まればわかる。

桟橋も、ビーチも、1組のために: Lentement suite villa(ラントマン スイート ヴィラ)淡路

Lentement suite-villa AWAJI公式サイトよりヴィラ淡路島(兵庫) · 兵庫県Lentement suite-villa AWAJI最大6名 · 300,000円〜 / 泊施設ページを見る →

淡路・洲本の海辺に建つ1日1組限定のハイクラスヴィラ。プライベートビーチと専用桟橋を備え、クルーズでチェックインもできる。HARVIAの最新サウナ、岩盤浴、室内ジャグジー。ここまでの設備を1組で使うのは過剰にも思えるが、その「過剰」こそが1日1組の思想の純度だ。定員6名、料金は約300,000円〜/泊(取得時点)。6人で割れば、この静けさの値段が見えてくる。

「空室」ではなく「静けさ」を買う

1日1組の宿の料金は、部屋代ではない。他の誰もいないという状態、つまり静けさそのものの値段だ。人数で割れば、案外手が届くことも多い。宿選びに迷ったら、紹介文の中の「1日1組」の文字を探してみてほしい。それは宿からの、「この場所のいちばんを、薄めずに渡します」という約束の言葉だ。

← 読みもの一覧へ