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貸切温泉という時間、源泉かけ流しを一組で独占する夜
温泉旅館の湯には、いつも時間割がある。大浴場は23時まで、朝は6時から。男湯と女湯の入れ替え、清掃の札、45分区切りの貸切風呂。名湯を前にして、私たちはいつも少しだけ急いでいる。
一棟貸しの貸切温泉は、その時間割から自由になるための滞在だ。源泉かけ流しの湯が、チェックインからチェックアウトまで、ただ一組のためだけに注がれ続ける。いつ入るか、何度入るか、どれだけ長湯するか。すべての決定権が、こちらの手にある。
考えてみれば、温泉地で「湯に急かされない」というのは、それだけで珍しい体験だ。着いてすぐ入ってもいいし、夕食を先にしてもいい。夜通し何度も入る人もいれば、朝湯だけを大事にする人もいる。貸切の湯は、そのどれもを等しく受け入れてくれる。
深夜零時、誰もいない湯
みんなが寝静まった頃、ひとりで湯に向かう。脱衣所の灯りをつけると、湯気の向こうで湯面が静かに揺れている。誰もいない。というより、最初から自分たちしかいない。
肩まで沈むと、湯の注ぐ音だけが残る。かけ流しの湯は絶えず入れ替わり続けていて、この一杯の新しさを、いま独り占めしている。大浴場では味わえない種類の静けさだ。時計を見る必要はない。のぼせたら上がって、夜風に当たって、もう一度戻ればいい。
長湯の夜は、考えごとがよくほどける。明日の予定ではなく、もっと遠くのこと。湯というのは不思議なもので、身体が温まるほど、頭の中は澄んでいく。
湯から上がって火照りが引くまでのあいだは、窓辺で夜風に当たる。遠くの闇、かすかな夜の音、自分の鼓動。もう一度入るかどうかを、誰にも相談せずに決められる。たったそれだけのことが、旅の質を静かに変えていく。
名湯をまるごと借りる宿: 草津温泉付き貸別荘 永田屋 昭和館

天下の名湯・草津で、一軒家をまるごと借りる。館内の湯には「わたの湯」源泉がかけ流しで引かれていて、好きな時間に、何度でも浸かれる。昼は湯の町を歩き、夜は自分たちだけの草津の湯へ帰ってくる。湯めぐりの拠点として、これ以上の贅沢はなかなかない。
4LDK・最大6名で、三世代の家族旅にもちょうどいい。草津温泉バスターミナルからは送迎があり、車がなくても訪ねやすい一軒だ。
大人数で湯を囲む宿: koti hakone(コティ箱根)

箱根・仙石原に建つ、1日1組限定の大型一棟貸し。源泉かけ流しの温泉に、本格サウナまで備わっている。6寝室・最大26名という規模だから、気の合う仲間の集まりや親族の節目の会にも応えてくれる。
宴のあと、順番にゆっくり湯へ。にぎやかな夜と、湯の中の静かな時間。その振れ幅こそ、大人数の温泉滞在のいちばんの醍醐味だ。全員が同じ屋根の下にいながら、湯に入る時間だけはひとりずつ違う。誰かが湯にいるあいだ、誰かはリビングで笑っている。その緩やかさが、大人数の夜のいちばんのご馳走になる。テラスでのBBQもでき、愛犬も一緒に泊まれる。
夜明けの露天が待つ宿: 天からの贈り物 Villa montpetre(ヴィラ モンペトル)

霧島の高原に建つ独立型のヴィラ。ここには源泉かけ流しの眺望露天風呂がある。おすすめしたいのは、夜明け前に起き出して入る一番湯だ。まだ暗い空の下で湯に沈み、山の稜線がゆっくり白んでいくのを、湯気越しに眺める。誰にも会わずに迎える朝は、旅の記憶のなかで特別な場所を占めるはずだ。
プライベートサウナも備わっているから、湯と熱を行き来する長い夜にも向いている。
湯上がりの過ごし方
貸切温泉のもうひとつの主役は、湯上がりの時間だ。火照った身体のまま、浴衣で歩いて数歩のリビングへ。冷たい飲み物を開けて、とりとめのない話をして、眠くなったらそのまま眠る。湯冷めを気にして廊下を急ぐ必要も、部屋着に着替え直す必要もない。湯と暮らしの距離がゼロになる。それが一棟貸しの温泉の正体だと思う。
そして翌朝は、朝湯から始めたい。夜のうちに何度も入ったはずなのに、朝の湯はまた別の顔をしている。冷えた空気のぶんだけ湯の温もりが際立って、一日の輪郭がゆっくりと立ち上がってくる。チェックアウトのその時間まで、湯は変わらず注がれ続けている。
一棟貸しヴィラの相場は1棟あたり中央値で約7万円/泊。人数で割れば、大人数なら1人1万円前後に収まることも多い。名湯の独占は、案外近くにある。
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