ホーム /読みもの /古民家に泊まる|再生された家を一棟借りる

古民家に泊まる|再生された家を一棟借りる

· 泊まり火編集部

古い家に入ると、最初に音が変わる。床がわずかに鳴り、天井が高いぶん声の返りが遅い。柱には手が触れ続けた場所だけ艶があり、梁は必要以上に太い。新築の一棟貸しが「きれいに整った空間」だとすれば、再生された古民家は「すでに誰かが長く使っていた空間」だ。同じ一泊でも、身体の落ち着き方が違う。

囲炉裏のある古民家の広間
Photo: JosephCoston / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)

古民家の宿は「古いまま」ではない

古民家の宿と聞いて身構える人は多い。寒いのではないか、風呂が使いにくいのではないか、家族で泊まるには不便ではないか。実際に泊まれる状態まで直した家は、そのほとんどが中身を入れ替えている。柱や梁、建具といった見える部分は残し、断熱、水回り、空調は今の基準に更新する。だから見た目は築何十年でも、寝るときはエアコンが効いている。

その「残す部分」の選び方が、そのまま宿の性格になる。土間を広間に変えた家、囲炉裏だけを別の家から移した宿、集落ごと直して一棟ずつ別の建築家に任せた場所。同じ古民家という言葉でも、行ってみると設計思想がまるで違う。

泊まり火に掲載している宿のうち、古民家そのものに泊まれるものはまだ多くない。以下は、その数少ない選択肢だ。

庭に向かって開かれた障子と畳の部屋
Photo: Hirho / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)

温泉のある古民家: 五氣里-itsukiri

五氣里-itsukiri公式サイトよりグランピング千葉県五氣里-itsukiri最大10名 · 48,000円〜 / 泊施設ページを見る →

都心から車で約90分、千葉県いすみ市の里山に広がる全室温泉付きのリゾート。客室は3タイプあり、そのひとつが再生した古民家を丸ごと貸し切る限定2棟の「kominka」だ。地下300mからくみ上げる黒湯の天然温泉が全客室に備わり、母屋2階の大浴場には露天風呂・内風呂・サウナ・水風呂がそろう。夕食は地元いすみの食材によるオーベルジュディナーと、全客室で楽しめるグランピングBBQの2スタイル。定員10名、料金の目安は48,000円〜/泊で、愛犬と泊まれる客室もある。圏央道・市原鶴舞ICから約30分、JR大原駅からの送迎(前日までの予約制)も使える。

古民家に温泉を通すのは、水回りを入れ替えたからこそできることだ。古い家の弱点をいちばん強い設備で埋めている。

集落ごと直す: glaminka SAYO集落

glaminka SAYO集落公式サイトよりグランピング兵庫県 · 佐用glaminka SAYO集落最大10名 · 38,600円〜 / 泊施設ページを見る →

兵庫県西部・佐用の山あいで、ひとつの集落をまるごと再生した古民家グランピング。全国から集まった建築家がチームに分かれ、HAZ・handi・YOUBI・maenomeriの4棟をそれぞれ設計しているため、同じ空間がひとつもない。集落の中心にはセンター棟があり、受付から催しまでを受け持つ。夕食付きで飲食物の持ち込みは無料、定員4〜10名、チェックインは16時でチェックアウトは翌10時30分。鳥取自動車道・大原ICから車で約15分、料金は38,600円〜。村を抜けると青く澄んだ渓流が現れ、日が暮れると集落の灯りだけが残って、望遠鏡なしで天の川が見える。

一軒だけを直すのと、集落を直すのとでは、外に出たときの景色が変わる。窓の外にも同じ時代の屋根が並んでいる。

海のそばの古民家: La-gom

La-gom ラゴム公式サイトよりグランピング静岡県 · 東伊豆La-gom ラゴム最大6名施設ページを見る →

伊豆半島東海岸の港町、静岡県東伊豆町稲取の海辺に2022年オープンしたオーシャングランピング。全3棟すべてが海を望む1棟貸切で、ドーム型テント2棟に加えて、古民家を改修した約100㎡のヴィラ「mukaian」がある。1日1組限定、定員2〜6名。各棟に専用の絶景テラスと、雨でも使える屋根付きの全天候型BBQスペースを備える。稲取温泉「石花海」または「銀水荘」の入浴券を無料で受け取れ、併設カフェでは稲取漁港のキンメも味わえる。伊豆急行「伊豆稲取」駅から約10分。

山あいの印象が強い古民家だが、港町にも古い家はある。潮風のなかで100㎡を独占するという選び方は、ドームテントとはまた別の贅沢だ。

泊まり方を選べる場所: CYMBALS シンバルス

CYMBALS シンバルス公式サイトよりグランピング岩手県 · 岩泉町CYMBALS シンバルス施設ページを見る →

岩手県岩泉町、道の駅いわいずみに隣接して2025年4月に開業した体験型リゾート。宿泊棟は多彩で、そのなかに古民家をリノベーションした一棟貸し「リノベコ」(2階建・平屋)がある。同じ敷地には、かつて大阪と青森を結んだブルートレイン「日本海」の寝台車に当時のままの姿で泊まれる棟もあり、1両貸切も可能だ。食事は龍泉洞黒豚やいわて短角牛、イワナ・ニジマスを使ったシェフのコース料理(3日前までの完全予約制)。バギーや薪割り、焚き火、龍泉洞の水を使った貸切風呂といった体験も用意されている。

古民家しかない宿ではなく、古民家も選べる宿。人数や好みが割れるグループには、この形が効く。

鉄瓶を吊るした囲炉裏と、膳の並ぶ座敷
Photo: Daderot / CC0 (Wikimedia Commons)

家ではなく、部材を継ぐという方法

古い家をそのまま残せない場合、部材だけを次の建物へ移すやり方がある。石川県白山市の一里野高原ホテル ろあんは、築100年以上の古民家から移築した囲炉裏を囲んで食事をする「囲炉裏オーベルジュ」を掲げる宿だ。A5ランクの飛騨牛・能登牛や、車で10分の精肉所から届く熊・鹿・猪のジビエ、白山麓の有機野菜を炭火で味わえる。風呂は白山の伏流水を沸かした貸切の岩露天風呂と総ひのき風呂で、温泉ではない。

岐阜県高山市国府の板倉庵 百 HAKU 飛騨高山は、古民家から集めた古材を用いたモダンな空間の一日一組限定の一棟貸しだ。大きな窓からパノラマの田園を望み、料金の目安は28,000円〜/泊。家の形は新しくても、触れる木は古い。

泊まる前に見ておくといいこと

古民家の宿を予約するときに、写真だけでは分かりにくい点がいくつかある。

  • 暖房と空調の内容。改修済みでも、天井が高く開口部の大きい家は暖まるまでに時間がかかる。囲炉裏や薪ストーブがある宿は、火の扱いが宿泊時間そのものになる。
  • 段差と階段。古い家は敷居や上がり框の段差が残っていることがある。小さな子どもや年配の家族と行くなら、事前に確認しておきたい。
  • 音の伝わり方。木と紙でできた家は、部屋と部屋の仕切りが薄い。二世帯や友人同士で棟を分けるかどうかの判断材料になる。
  • 火と煙の扱い。囲炉裏や炭を使う宿では、衣類に匂いが残る。翌日の予定が仕事や来客なら、着替えを一枚多く持っていくと安心だ。

どれも欠点ではなく、性格だ。新しい家が消してきたものを、そのまま残している宿を選んでいるのだから。

よくある質問

古民家の宿とは何ですか?
古い日本家屋を改修して宿泊できるようにした宿の総称です。柱や梁といった木の骨組みを残したまま、断熱や水回り、空調を現代の基準に更新している施設が多く、一棟貸しやグランピング施設のなかの一棟として運営されています。
古民家を一棟貸しで借りられますか?
借りられます。千葉県いすみ市の五氣里には再生した古民家を丸ごと貸し切る限定2棟の客室があり、静岡県東伊豆町のLa-gomには古民家を改修した約100㎡のヴィラが1日1組限定であります。岩手県岩泉町のCYMBALSにも古民家をリノベーションした一棟貸しがあります。
古民家の宿は寒くないですか?
施設によります。改修時に断熱や空調を入れている宿が多く、囲炉裏や薪ストーブを備える宿もあります。天井が高く開口部の大きい家ほど暖まるまでに時間がかかるので、暖房設備の内容は公式サイトで確認しておくと安心です。

← 読みもの一覧へ