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越前がにと松葉ガニは、同じカニだった|名物を決めているのは県境ではなかった

· 泊まり火編集部

宿を決めると、次に調べるのはその土地に何があるかだ。

泊まり火は85のエリアに名物を記録している。全部で342。

1エリアに4つ、全部で342

85エリアすべてに名物が入っていて、合計342項目。1エリアあたり4.0項目で、全部に短い説明が付いている。

ところが名前の種類を数えると283しかなかった。342から283を引いた分だけ、同じ名前が別のエリアに出てくる。

3割は、よその土地の名物でもある

複数のエリアに出てくる名前は42種。項目数で数えると**101項目で、342の30%**にあたる。

多い順に並べるとこうなった。

名物 エリア数 都道府県
りんご 4 長野・青森・群馬
伊勢海老 4 千葉・三重・静岡・和歌山
信州そば 4 長野
タコ 3 熊本・愛知・広島/愛媛
越前がに 3 福井
寒ブリ 3 石川・富山・新潟
甘えび 3 福井・北海道
しらす 3 神奈川・茨城
高原野菜 3 長野・栃木
花豆 3 長野・群馬
温泉まんじゅう 3 神奈川・静岡・群馬

42種のうち19種は県をまたいでいて、23種は同じ県の中だった。この2つは別の話なので、順に見ていく。

なお尾道・しまなみ海道のエリアは広島と愛媛にまたがっているので、タコは3エリアだが4県にかかる。

枝についたまま色づいたりんご
Photo: Noah Wulf / CC BY-SA 4.0 (Wikimedia Commons)

同じカニが、4つの名物になっていた

カニと名のつく項目は9つある。説明文を読むと、面白いことになっていた。

  • 越前がに(福井・越前海岸)「冬の越前海岸を代表するズワイガニ。身も味噌も濃厚」
  • 越前がに(福井・東尋坊)「日本海で獲れる雄のズワイガニ」
  • 松葉ガニ(兵庫・城崎温泉)「冬の但馬を代表する高級ズワイガニ」
  • 松葉ガニ(京都・京丹後)「冬の日本海を代表するズワイガニ。丹後の味覚の王様」
  • 間人ガニ(京都・天橋立)「丹後で水揚げされる松葉ガニのブランド。幻のカニ」
  • セイコガニ(福井・東尋坊)「越前がにの雌。内子・外子の濃厚な味わい」

同じズワイガニが、福井では越前がに、兵庫と京都では松葉ガニ、そのうち間人港に揚がったものは間人ガニになる。雌だけはセイコガニという別の名前がつく。

9つのうち別種なのは、静岡・西伊豆のタカアシガニ(「世界最大級の深海ガニ」)だけだった。

つまり名前は生き物ではなく、揚がった港に付いている。間人ガニが「松葉ガニのブランド」と説明されているのが象徴的で、ブランドの中にさらにブランドがある。

季節の食材を盛りつけた一皿
Photo: Yuya Tamai / CC BY 2.0 (Wikimedia Commons)

決めているのは県境ではなく、海流と標高だった

県をまたぐ19種を見ると、並び方に理由がある。

伊勢海老は4エリア。千葉の館山・南房総「全国有数の水揚げを誇る、房州の伊勢海老」、三重の伊勢志摩「志摩の海を代表する高級エビ」、静岡の下田・南伊豆「南伊豆の磯で獲れる秋冬の味覚」、和歌山の南紀白浜「紀州の磯で獲れる高級海老」。4つとも、黒潮が当たる太平洋側の磯だ。

寒ブリは3エリア。石川の能登、富山の立山・富山、新潟の佐渡島。富山湾とその周りを囲む3県で、どれも「冬の日本海で脂がのる」と書いてある。

りんごは4エリア。長野の安曇野「日照と寒暖差が育てる」、青森の深浦・十二湖と黒石・津軽、群馬のみなかみ「谷川岳の麓、標高の高い果樹園で育つ」。標高と寒暖差という条件が揃う場所に、県を問わず現れる。

設備を決めているのは土地だで、北海道にプールが0軒で沖縄に温泉が0軒だという話を書いた。食でも同じことが起きている。名物を決めているのは行政の線ではなく、海流と標高と土壌だ。

同じ県の中では、名物は共有されている

いっぽう同一県内で重なる23種は、別の意味を持っている。

  • 信州そばは長野の4エリア全部(安曇野・白馬・軽井沢・八ヶ岳)
  • 越前がには福井の3エリア(越前海岸・東尋坊・若狭小浜)
  • 白えびとホタルイカは富山の2エリア(氷見・立山)
  • 間人ガニと岩ガキは京都の2エリア(天橋立・京丹後)
  • じゃがいもと乳製品は北海道の2エリア(美瑛・ニセコ)

これは地形の話ではなく、こちらがエリアを細かく割ったせいだ。県の中には境がないので、長野のどこに泊まってもそばが名物になる。

逆に言えば、同じ名物を狙うなら宿の選択肢は1エリアに限らない。越前がにを食べるために越前海岸まで行く必要はなく、福井の3エリアどこでも名物として挙がっている。

旬が書かれているのは19%

342項目のうち、説明文に季節が出てくるのは64項目(19%)だった。

季節 項目数
冬 26
夏 17
秋 12
春 9

冬がいちばん多い。カニが9つあり、寒ブリが3つあるのだから当然ではある。冬の宿は食べるもので選びやすい、ということでもある。

10月の半ばに当たるものを拾うと、こうなる。

  • 小樽のシャコ「石狩湾で穫れる秋の味覚」
  • 佐渡島のおけさ柿「種のない佐渡名産の柿。とろりと甘い秋の味覚」
  • 吉野・黒滝の奈良の柿「全国有数の産地・奈良の柿」
  • みなかみのりんご「秋は味覚狩りも楽しめる」
  • 北軽井沢の嬬恋高原キャベツ「標高千m超の高冷地で育つ夏秋キャベツ」
  • 下田・南伊豆の伊勢海老「南伊豆の磯で獲れる秋冬の味覚」

残りの81%は季節が書かれていない。年中あるものか、書く必要がなかったものかは、説明文からは分からない。

買えるものと、店で食べるもの

貸切ヴィラ321軒のうち、キッチンがあるのは221軒だ。だから名物を買ってきて作る、という旅ができる。

ただし名物には3種類が混ざっている。

  • 買って作れる食材: 車海老、うに、タコ、りんご、淡路島たまねぎ、本わさび
  • 店で食べる料理: 鶏飯(奄美)、高菜めし・だご汁(阿蘇)、飛鳥鍋(明日香)、柿の葉寿司(吉野)、信州そば、高山ラーメン
  • 持ち帰る加工品: 黒糖焼酎、炭酸せんべい(有馬)、温泉まんじゅう、信州味噌、奈良漬

キッチンで作るつもりなら、食材の名物があるエリアを選ぶことになる。そばや丼や鍋が名物の土地では、キッチンはあっても使わないかもしれない。

そして1泊は19時間しかない。15時に着いて買い出しに出ると、作れるのは夕食と朝食の2回だ。名物が4つあっても、全部は食べられない。買い出しから始まる旅の港町のように、買う行為そのものを目的にするなら話は別になる。

港の名前を食べている

ズワイガニを食べて、越前がにを食べたと言う。

名物とは、生き物に土地の名前を貼ったものだった。隣の県でも同じものが獲れる。獲れるけれど名前が違うから、別のものを食べた気になる。

それを誤解だとは思わない。同じカニでも、揚がった港が違えば、食べた場所の記憶は違う。城崎の松葉ガニと越前海岸の越前がには、カニとしては同じで、旅としては別のものだ。

85のエリアに342の名物があるのは、342種類の違う生き物がいるからではない。342の違う土地があるからだ。

よくある質問

エリアごとに名物はいくつ記録されていますか?
85のエリアすべてに記録があり、合計342項目で1エリアあたり4.0項目です。全部に短い説明が付いています。ただし名前の種類は283しかなく、42種は複数のエリアに重複して出てきます。
越前がにと松葉ガニは違うカニですか?
どちらもズワイガニです。掲載している説明文でも、越前がには「日本海で獲れる雄のズワイガニ」、松葉ガニは「冬の日本海を代表するズワイガニ」と書かれています。さらに京都の間人ガニは「松葉ガニのブランド」、福井のセイコガニは「越前がにの雌」と説明されています。同じ生き物が、揚がった港と雌雄によって4つの名物になっています。
同じ名物が複数のエリアに出てくるのはなぜですか?
名物を決めているのが県境ではないからです。複数エリアに出る42種のうち19種は県をまたいでいます。伊勢海老は千葉・三重・静岡・和歌山の4エリア、寒ブリは石川・富山・新潟の3エリア、りんごは長野・青森・群馬の4エリアです。黒潮が当たる磯、富山湾を囲む海、標高の高い果樹園という具合に、地形のほうが名物を決めています。
名物の旬はどこで分かりますか?
342項目のうち季節に触れているのは64項目(19%)で、冬が26・夏が17・秋が12・春が9です。冬がいちばん多く、カニとブリが並びます。10月なら小樽のシャコ(石狩湾で穫れる秋の味覚)、佐渡のおけさ柿、奈良の柿、みなかみのりんご、嬬恋高原キャベツ、南伊豆の伊勢海老(秋冬の味覚)あたりが該当します。
宿のキッチンで名物を料理できますか?
名物の種類によります。貸切ヴィラ321軒のうち221軒にキッチンがありますが、名物には買って作れる食材(車海老・うに・りんご)と、店で食べる料理(鶏飯・高菜めし・だご汁・そば)と、持ち帰る加工品(黒糖焼酎・温泉まんじゅう・味噌)が混ざっています。作るつもりなら、食材の名物があるエリアを選ぶことになります。

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